韓国現代戯曲ドラマリーディング Vol.4

韓国現代戯曲ドラマリーディング4

2009年3月13日~15日
シアタートラム

◯リーディング

凶家

作=李ヘジェ(イ・ヘジェ)
翻訳=木村典子
演出=篠本賢一

出演=岩崎正寛(演劇集団円)/内山厳(フリー)/加藤慶太(東京演劇アンサンブル)/川上直己(ピープルシアター)/秦由香里(演劇集団円)/鈴木絢子(ピープルシアター)/清和竜一(朋友)/手塚祐介(演劇集団円)/中山一朗(フリー)/中山昇(フリー)/福井裕子(演劇集団円)/ 伏見嘉将(朋友)/松熊つる松(青年座)/ミョンジュ(フリー)/横尾香代子(演劇集団円)

作=李ヘジェ

1971年、慶尚南道釜山生まれ。釜山南高等学校を卒業し東国大学に進学するが、演劇を志し故郷・釜山のカマゴル小劇場で演劇活動を始める。93年、再びソウルに行き、〈ウリ演劇研究所〉に所属、作家としてカントルの『死の教室』などの再構成に関わるが、九四年からフリーとなり本格的な作家活動に入る。95年、初戯曲『曲馬団物語』を発表、その後、『花畑』(96)、『詩劇 凶家(原題・凶家に光よ射せ)』(99)などを経て、2000年に同郷の俳優たちと劇団〈蜃気楼万華鏡〉を旗揚げ、活動領域を演出にも広げる。2001年~06年は演劇実験室〈恵化洞一番地〉の第三期同人となり、独自の演劇的世界を構築するとともに、『風の国』(01)、『ロミオとジュリエット』(02)、『マジック・カーペット・ライド』(05)など、ミュージカル脚本も手がける。また、2002年の〈日韓舞台芸術コラボレーションフェスティバル〉に『水漬く屍』で参加し、『出撃』(作=鐘下辰男、演出=鵜山仁)と競演。2008年には三谷幸喜『笑の大学』を演出。
2000年〈明日を開く作家〉(韓国文化芸術振興院)に選定、2005年〈今年の若い芸術家賞〉受賞。他の代表作に、『世紀初期怪奇伝記』(00)、『薛公瓚傳』(03)、『ストーリーキング捜索本部』(04)、『津波』(05)、『六分の戮』(05)、『象とわたし』(07)、『タリフォーン・モダンガール』(07)などがある。

『凶家』あらすじ

ある夜パブクスンは、自身も知らぬ間にふらふらと、三〇年前に住み込み奉公をしていた南長者の家を訪れる。荒れ果て、今は誰も住む者もない凶家となったこの家で、パブクスンはひどい過去を回想し、自殺を試みる。その時、大門鬼神となった南長者があらわれる。南長者はどうして家が没落したのか、その理由をパブクスンに問いただし、二人は賭けをする。賭けは、家神のふりをして家にとりつく雑神たちに、彼らがすでに死んでいることを教えてやること。しかも条件が三つ。言葉で死んだことは教えてはいけない、南長者を巻き込んではいけない、朝まで生きていなければならない。この賭けに負ければ、パブクスンを生きる屍にしてやるというのだ。まもなく、次々にあらわれる雑鬼たち。よく見るとかつて一緒にこの家で暮らした人々だ。三〇年前のある日、その日とまったく同じに行動する彼らを見て、驚くパブクスン。そして、奇妙にもつれ合う事情で死んでいった彼らのあの夜が再び繰り広げられる。

凶家

こんな歌

作=鄭福根(チョン・ボックン)
翻訳=石川樹里
演出=堀江ひろゆき

出演=笠河英雄(コズミックシアター)/金子順子(コズミックシアター)/清原正次(劇団大阪)/堂崎茂男(劇団潮流)/ 仲里玲央(フリー)/やまみ りんご(コズミックシアター)

作=鄭福根

1946年、忠清北道清州市生まれ。中央大学国文学科四年中退。1974年より劇団架橋の座付作家として本格的に劇作を始め、同劇団の先輩作家であった李康白の勧めで新人劇作家の登竜門である日刊紙の新春文芸に応募し、1976年に東亜日報新春文芸に『キツネ』が当選。以来三十余作の戯曲を執筆し、現在まで創作活動を続けている、韓国を代表する女性劇作家である。主に歴史の荒波に翻弄される人間の苦悩を女性の視点から捉え、過去と現在が混在する濃密な時空間を凝縮された文体で表現している。1994年以降、女性演出家ハン・テスクとコンビを組んで数々の話題作を発表した。
代表作に『台風』(78)、『チッキミ(守り神)』(87)、『毒杯』(88)、『失碑銘』(89)、『隠れた水』(92)、『こんな歌』(94)、『チェロ』(94)、『徳恵翁主』(95) 、『世宗32年』(96)、『私、キム・スイム』(97)、『羅雲奎――夢のアリラン』(99)、『ベ・ジャンファ、べ・ホンリョン』(01)、『荷』(07)などがある。1989年『失碑銘』で韓国百想芸術大賞戯曲賞、1994年『こんな歌』でソウル演劇祭戯曲賞を受賞、1997年ヨンヒ演劇賞、2008年『荷』で大山文学賞戯曲部門を受賞。

『こんな歌』あらすじ

ヨンオクは韓国の伝統衣装であるチマ・チョゴリの仕立て職人である。彼女は作業場で、一人ミシンの前に座り、チマ・チョゴリを仕立てている。彼女は幻聴に苦しめられ、過去を回想する。彼女の家は、代々裕福だった。しかし日本の植民地時代に親日家だった彼女の父親が、北朝鮮の人民軍に殺されて以来、家運が傾いてしまった。俗に言う裕福な暮らしを夢みていたヨンオクは、一流大学出身であるにもかかわらず、田舎で教師生活を送る夫に不満を持つ。彼女は、あらゆる方法を使って、夫のインスを国会議員にしようとする。結局、進歩政党に入党したインスは、でっちあげのスパイ容疑で逮捕される。夫を釈放させるために、ヨンオクは警察の口車に乗せられ、インスをスパイとして密告する。しかし検察は彼女との約束を裏切り、インスは死刑にされる。夫を告発し、死に至らせたヨンオクと息子ギョンフンは村を追われ、苦しい生活を強いられる なんとか大学院を出たギョンフンは、工場に就職し、労働組合に入って賃金闘争をはじめる。息子を労働組合から脱退させるため、ヨンオクは労組のアジトを警察に密告する。ところが、これを知ったギョンフンは、その場所に駆けつけ、焼身自殺をしてしまう。自分の愚かさに気付き、絶望に陥ったヨンオクは、夫と息子の幻影に苦しみ、部屋に火を放つ。

統一エクスプレス

作=呉泰栄(オ・テヨン)
翻訳=津川泉
演出=中村哮夫

出演=荒川大三郎(演劇集団円)/石坂重二(フリー)/伊藤克(東京演劇アンサンブル)/籠嶋徹也(ピープルシアター)/鬼頭典子(文学座)/二宮聡(ピープルシアター)/野口仁志(ピープルシアター)

作=呉泰栄

1948年ソウル生まれ。1974年ソウル芸大演劇科卒業。同年『歩行練習』が中央日報新春文芸戯曲部門当選。1979年韓国戯曲作家協会賞、1980年代は劇団76で活動。1987年戯曲集『風の前に灯をかかげ』出版。同年「戦争」で第32回現代文学戯曲部門受賞。アウトサイダー的視点から数々の社会諷刺劇を発表。88年『売春』は公演倫理委員会の公演不可判定が出たが敢行。公演事前審議制度廃止の端緒となった。以来、10年近く断筆。久々に発表したのが1999年『統一エクスプレス』。2000年『豚の脂身』、2001年『燃えるソファ』、2002年『きな粉』と立て続けに統一演劇シリーズ四本を発表、作風の大きな転換点となった。2003年『車輪』、2004年『ホテル フェニクスで眠りたい』、2006年『禅』、2008年創作戯曲活性化支援事業選定作品『おだやかな埋葬』は、ピンターの初期作品に触発され「従来の劇作法から脱皮、新しい変化を試みた」作品だという。

『統一エクスプレス』あらすじ

舞台は軍事境界線近くにある飲食店。店を偽装経営するウボと北側の行動隊員カプサンは越境する人々を南北往来秘密通路に案内し通行料を取って大金を儲けている。ウボはオッカという娘を利用している。秘密通路を通り、脱北した彼女はこの秘密通路こそ全国統一の道だと信じ、国境守備隊員たちに体を売って、地雷を掘りだし、秘密通路の安全を確保している。
そんなある日、某財閥会長が牛の群れを追い立てて北朝鮮を訪問し、政府がウボの飲食店のそばに公式往来窓口を開設したため、彼らの商売は閑散となる。ところが、分離体制固着を狙う機関員と武器販売業の財閥が、統一を阻止するために潜水艦などを使って局地戦を挑発しようと陰謀をたくらむ。その結果、商売は再び活気を帯び、彼らは喜々として祝杯を上げる。無邪気に「私たちの願いは統一」という歌を歌うオッカ。公式往来を待ち望む失郷民の老人は、夢に描いた故郷を踏むことができずに死ぬ。

統一エクスプレス

◯シンポジウム

「日韓演劇交流の歴史と末来」

金義卿(キム・ウィギョン)

現代日本戯曲リーディング3(ソウル)

2007年11月29日~12月2日
韓国中央国立劇場

◯リーディング

悔しい女

作=土田英生/翻訳=石川樹里/演出=キム・ドンヒョン

鳩を買う姉妹

作=岩松了/翻訳=李恵貞/演出=パク・グニョン

こんにちは、母さん

作=永井愛/翻訳=木村典子/演出=パク・ジョンヒ

◯翻訳

『Last Show』

作=長塚圭史/翻訳=朴泰圭(パク・テギュ)

『パンドラの鐘』

作=野田秀樹/翻訳=明眞淑(ミョン・ジンスク)

『ヘブンズサイン』

作=松尾スズキ/翻訳=洪善英(ホン・ソニョン)

韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.3

韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.3

2007年2月2日~4日
シアタートラム

韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.3

ドラマリーディング

山火(やまび)

作=車凡錫(チャ・ボムソク)
翻訳=木村典子
演出=石澤秀二

出演
神山寛(俳優座)/土屋美穂子(青年座)/浦吉ゆか(青年劇場)/志村麻里子(テラ・アーツ・ファクトリー) 前田真里衣(民藝)/鶉野樹理(俳優座)/清田直子(フリー)/井口香(テラ・アーツ・ファクトリー)/五味多恵子(青年座) 緒方淑子(青年座)/根岸佳南江(テラ・アーツ・ファクトリー)/高橋浩平(フリー)/武田光太郎(レオコーポレーション) 広戸聡(青年劇場)

作=車凡錫

1924年、全羅南道木浦生まれ。光州師範学校(1945年)ならびに延世大学英語英文科(1966年)を卒業。55年、朝鮮日報新春文芸に戯曲『密酒』が佳作入選、翌年『帰郷』が当選し文壇デビュー。戦後文学の第一世代として、韓国リアリズム演劇の確立に貢献。戦後文学世代ならではの風刺と批判意識の強い作品群は、戦争とその傷痕という問題にとどまることなく、変遷する社会を多様な角度からみつめている。60年代には代表作『山火』をはじめ『鷗の群』『青瓦家』など17作品、70年代には『王教授の職業』『虐殺の森』など21作品、80年代以降は『鶴よ、愛なのだろう』『夢の空』『オクダン』などを発表。また、56年に劇団製作劇会を旗揚げし、小劇場運動を主導。63年、劇団山河創団。清州大学、ソウル芸術専門大学で教鞭をとりながら、大韓民国芸術院会長、韓国文化芸術振興院長を歴任。2006年6月6日、82歳で他界。 朝鮮戦争休戦会談が行われた冬から翌春にかけての、慶尚道と全羅道を隔てる山脈の山あいにある集落。

『山火』あらすじ

里長の梁(ヤン)氏のところへ女たちが集まっている。ほとんどの男たちは殺されたのだ。梁氏の息子で点禮(チョムレ)の夫は、人民軍に捕まる前に逃げたとされ、反動の札をつけられている。いらだつ女たちは、穀物のことや梁氏の息子のことで口論となる。貧しさで生活は荒んでいた。そこへ夜警勤務の命令が下る。この村にアカが逃げ込んだらすぐ通報せよと。もし匿えば連帯責任で村が処罰されることになる。梁氏が夜警当番の晩、点禮の前に怪我をした圭福(ギュボク)が現れる。アカではないという圭福を点禮は竹林に匿う。
3週間後、点禮は竹林に食料を運んでいた。圭福と密会を重ね親密な関係になっている。圭福はアカの友人に連れ回され、いつのまにかアカの札をつけられていた。自首を勧める点禮だが圭福の決心はつかない。村では山にアカが逃げ込んだと噂されていた。竹林から下りてきた点禮を四月(サウォル)が見つける。詰め寄る四月にこっそり圭福のことを告げると、四月は一日交代で圭福の面倒を見ることを提案、点禮は仕方なく承諾する。
早春、四月が寝込んでいる。圭福との子を身籠もったらしい。亭主もいないのに子どもが出来るはずがないと母の崔(チェ)氏は思っている。四月の様子を見に行く点禮。アカを一掃するために山に火を放つという噂もあり、二人は追い詰められる。四月の子どものことは村でも噂になっていた。
竹林を燃やすためにやってきた兵士を必死に止める点禮だが、願いも空しく火が放たれる。やがて圭福が引きずり出され、女たちは四月の家へ押し寄せる。家の中から聞こえた崔氏の悲鳴は、やがて泣き声に変わっていく。その声を聞きつつ、点禮が圭福の手足を揃えてやる。

山火

人類最初のキス

作=高蓮玉(コ・ヨノク)
翻訳=山野内扶
演出=笠井友仁

出演
中山一朗(フリー)/池田勝(フリー)/勝矢(RIKIプロジェクト)/矢内文章(フリー)/高松潤(青年座)/横山晃子(テラ・アーツ・ファクトリー)/菊地誠(フリー)/渡邉力(フリー)/横手ひさお(銅鑼)

作=高蓮玉

1971年ソウル生まれ。94年、釜山東亜大学卒業。同年、釜山MBC児童文学大賞少年小説部門に入賞。時事雑誌記者ならびに放送作家として活動中の96年、釜山日報新春文芸戯曲部門に入賞し、劇作家としてデビュー。99年、釜山市立劇団主催の小劇場フェスティバルで『夢ならいいのに』、埠頭演劇団で『芝居のような人生』(原作=『ヴォイツェック』)など、釜山での活動が中心だったが、01年に金洸甫(キム・カンボ)演出で『人類最初のキス』をソウルで上演。この作品が2001年演劇評論家協会が選ぶベスト3に選ばれ一躍脚光をあびる。03年、再び金洸甫とのコンビで『笑え、墓よ』を上演し、04年の芸術賞演劇部門優秀賞、浦項国際演劇祭最優秀作品賞。06年、『一週間』(演出=朴根亨(パク・グニョン))、『白下士官物語』(演出=ムン・サムファ)を発表、ブレヒトの『肝っ玉おっ母とその子どもたち』の脚色も手がけるなど、旺盛な創作活動をつづけている。

『人類最初のキス』あらすじ

人里はなれた山奥にある青松(チョンソン)監護所の一般房に、元タクシー運転手のハクス、この部屋の班長トンパル、イエス信者のソンマン、入所間もないやくざのサンベクが暮らしている。
ハクスの仮釈放の決定を下す社会保護委員会が開かれ、判事・検事・心理学者・精神科医の審査が始まる。反省を述べるハクスに対し、検事は危険な男だと言い、心理学者は極悪非道な犯罪者の典型的な顔だと説明しつづけている。医師はそれに対し時代錯誤と反論するも、結局保護観察延長3年が言い渡される。判決を聞き狂いだしていくハクスを興味深くみながら判事は5年、7年とさらに延長する。ハクスから理性の色が消えはじめる。ある日の早朝、ハクスが食べていたものは自分の糞だった。
ソンマンの懺悔文が評価され、仮釈放の社会保護委員会が特別に開かれた。ソンマンはまるで救世主イエスのような神々しい姿で、逆に危険人物とみなされ、仮釈放は棄却される。暴れたソンマンは教導官に銃殺される。残された三人の前に亡霊となって現れ、こちらは幸せな場所だと死の世界に誘う。ハクスは静かに息絶える。
サンベクのところへ教導官が来る。長い間の顔見知りだ。教導官は一生を塀の中で暮らす俺たちは似たり寄ったりだと言い、サンベクもそれに同意する一方で、私は人殺しの悪人だと言い、教導官を絶望させる。
トンパルの社会保護委員会が開かれた。外へ出る意思がないトンパルを理解できない判事たち。その時、外が騒がしくなる。一人の受刑者がトイレで首をくくったことが知らされる。トンパルはサンベクだと直感する。判事は満65歳以上は無条件仮釈放となる判決を出すが、トンパルはそれを拒む。空に向かって話すトンパル。「俺も連れて行けよな。いっしょに行こうぜ。」

人類最初のキス

0.917

作=李鉉和(イ・ヒョナ)
翻訳=鄭大成
演出=中野志朗

出演
二宮聡(ピープルシアター)/髙橋幸子(青年座)/松熊つる松(青年座)/城全能成(文学座)

作=李鉉和

1943年、黄海道載寧生まれ。67年、延世大学英文科卒業。93年、延世大学言論情報大学院新聞放送高位課程修了。70~01年までKBSテレビに勤務。70年、「中央日報」新春文芸に『ヨハネを捜します』で入選し、76年、「中央日報」創刊10周年記念公募に『シーシーシーッ』が入賞、金正鈺(キム・ジョンオク)演出で自由劇場が上演。77年「文学思想」新人作品賞、78年ソウル劇評家グループ賞、韓国演劇映画芸術賞、79年「現代文学」賞、84年大韓民国文学賞、87年大韓民国演劇祭戯曲賞、88年東亜演劇賞、百想芸術大賞、98年キリスト教文化大賞など受賞多数。
75~80年、民衆劇場『どなたですか?』がロングラン。『カデンツァ』(78)、『0.917』(81)で劇作家としての地歩を固め、『サンシッキム』(81)、『不可不可』(82年)などで、抑圧された人間存在の悩める魂の深奥をさらに追及した。〈残酷演劇〉という面ではアントナン・アルトーとの、風刺的想像力の楽しみ・不条理劇という面では朴祚烈(パク・ジョヨル)やピンターとの、共通性で語られることもあり、現代韓国におけるポストモダン劇の急先鋒である。

『0.917』あらすじ

ある雨のふる夜、中年の男が一人、宿直室で無聊な時を過ごしている。
そこに、雨にびっしょり濡れた一人の少女が飛びこんでくる。男は少女を家に帰そうとする。が、少女は男の言うことをきかず、体で男を誘惑し、中年になるまで、何をし、何のために生きてきたのかと、男を厳しく問い詰める。50代後半での惨めな定年退職を考えたら、挫折して当然ではないかと。
そこに、夜食のサンドウィッチを持って、男の妻が現れる。男はあわてて少女をソファの後ろに隠す。しかし、これまでのことはすべて男の幻想だった。いつの間にか現実の世界に戻った男の耳に、少女の笑い声が響く。汽笛よりも大きく、その笑い声は男をあざ笑う。
さて、所かわって、さっきの男の妻か。たしかに話は繋がっているのだが、違う女だという設定で女A。マンションに帰って明かりをつけると、闇の中で少年がうずくまっていたので驚く。
家に帰そうとするが、黙ってばかりいて、なかなか帰らない。そのうち女Aは少年に同情してしまう。亭主の食べなかったサンドイッチを少年に食べさせた後、だんだん気を許してしまう。
少年は顔色を窺いながら、いつのまにか女Aの乳房に手をやっている。そして彼女にワインを勧める。しらずしらず彼女は興奮してくる。その瞬間、少年ははじめて声を発し、肉体派サディストに変身。ワインを胸にたらして女Aに飲ませ始める……。
そして最後の場所は、少年A・少女Aの登場するアジト。帰ってきた彼らの謎めいた会話。あたかも妖怪人間のごとく、「早く成人になりたい」という彼らは何を表しているのか。
「幕」という語を廃し、登場人物につけられる「A」という記号。物語を拒否しつつ、無数に累乗されるストーリー。

0.917

離婚の条件

尹大星(ユン・デソン)
翻訳=津川泉
演出=森井睦

出演
青木勇二(FMG)/井口恭子(青年座映画放送)/伊東知香(ピープルシアター)/久野歩(フリー)/籠嶋徹也(ピープルシアター)/佐野美幸(青年座)

作=尹大星

1939年咸鏡北道會寧生まれ。61年延世大学校法学科卒業。64年ドラマセンター演劇アカデミー修了(現・ソウル芸術大学)。67年東亜日報新春文芸戯曲部門に『出発』が当選。銀行員生活をしながら戯曲を書いていたが、70年銀行を辞め、本格的作家活動開始。73~80年劇作の傍らMBC専属作家として『捜査班長』などテレビドラマを執筆。80年からソウル芸大劇作科で教鞭をとり、04年退官。同年『尹大星戯曲選集』全4巻刊行。
2000年23回東朗・柳致眞演劇賞、韓国演劇映画芸術賞(2回)、東亜演劇賞、現代文学賞、大韓民国演劇祭戯曲賞、大韓民国放送大賞脚本賞、韓国演劇芸術賞、大統領表彰、国民褒章などを受賞。
主な作品に『マンナニ(ならず者)』『奴婢文書』『出世記』『男寺党の空』『SARS家族』『明洞ブルース』『清渓川(チョンゲチョン)』。韓国の伝統的仮面劇などの民俗的要素を加味した作品や、青少年のための作品、『離婚の条件』に代表されるアクチュアルで社会性濃厚な写実主義的作品がある。

『離婚の条件』あらすじ

90年代半ば頃から20年以上連れ添った中高年の「熟年離婚」が韓国でも増え、「黄昏離婚」という名でマスコミ報道されるようになった。『離婚の条件』は、熟年夫婦の危機と波紋をリアルに描く。
コピーライターの夫は、アイディアの創出に四苦八苦していた。コーヒーの宣伝コピーがままならないのだ。そんなある日CF撮影現場で在日同胞出身のモデル、30代初めのユミに出会い、互いに惹かれあう。
娘の結婚の3日前、妻が夫に突然離婚を宣言。実は25年の間、着々と離婚準備を進めてきた。ことあるごとにアドバイスしてきた主治医崔博士も困惑するばかり。その晩、婚約者ハンが娘エラを訪ねて突然、婚約破棄を申し出る。夫は婚約破棄に賛成する。泥酔したハンはエラの部屋に泊まり、枕を共にする。深夜、エラと愛しあって自信を取り戻したハンは破棄を撤回。ハンが帰っていくと、夫人が恋人がいると告白。夫は家を出て行く。
数ヶ月後、夫は散らかり放題の部屋で腰痛に苦しんでいた。訪ねてきたユミが、いつものように腰に脚を絡ませて抱きついた拍子に腰痛が奇跡的に治る。二人は一緒に暮らしはじめる。
ひと月後。部屋からユミがかばんを持って出ていこうとする。と、夫が帰ってくる。夫の言い訳もむなしく、ユミは出て行く。夫ははじめて、「生きるとは何か?」という人生の意味に対する根源的問いに直面する。そして妻に電話する。だが、妻の名が思い出せない。世界が壊れた彼の眼前には、幻影のように現れる夫人、博士、娘夫婦、ユミ。
夫の子供を妊娠したユミは自立して子供を育てるという。「残った人生でオレの役割は?」とつぶやく夫。崔博士が答える。「死の安息が待っている」と。その時、ようやく人生の真実に開眼した彼に、行き詰まっていた広告コピーのアイディアが閃く。

離婚の条件

呉将軍の足の爪

作=朴祚烈(パク・ジョヨル)
翻訳=石川樹里
演出=鄭義信

出演
下総源太朗(ワンダー・プロダクション)/服部良次(黒テント)/南谷朝子(青年座映画放送)/朱源実(ケイファクトリー)/柴田次郎(マックス・プロモート)/紫竹芳之(フリー)/佐藤秀嗣(フリー)

作曲=萩京子

作=朴祚烈

1930年、咸鏡南道咸州郡生まれ。咸興高級中学校卒業後、北朝鮮で一年半あまり中学校の文学教員を勤める。1950年、朝鮮戦争のさなかに南に渡る。その後12年間、韓国陸軍服務。63年、ドラマセンター演劇アカデミー研究課程(現ソウル芸術大学)に入学し、戯曲・ドラマ脚本の執筆を始め、63年10月、処女作『観光地帯』を発表。65年、『ウサギと猟師』で東亜演劇賞受賞。66年、劇団自由の旗揚げに参加。73年、呂石基(ヨ・ソッキ)教授とともに、韓国劇作ワークショップを開設。81年、ドラマドキュメンタリー『大地の息子』で大韓民国放送大賞受賞。86年以後、創作活動を中断し、演劇上演に対する事前検閲制度の廃止運動を主導。88年、『呉将軍の足の爪』で百想芸術大賞受賞。現在、韓国芸術総合学校演劇院客員教授。大韓民国芸術院(アカデミー)会員。ほかの代表作に『首の長い二人の対話』、『シロの訪問』、『曺晩植は生きているか』ほか。ラジオドラマ・テレビドラマ多数。

『呉将軍の足の爪』あらすじ

貧しい小作人の一人息子として生まれた呉将軍は、おっ母とモクセ(牛)と日々のどかに暮らしていた。ある日、将軍のもとに召集令状が届く。将軍は恋人コップンに知らせに行き、入隊する前にと結ばれる二人。
訓練所に入った呉将軍二等兵は、訓練中に腰が抜けたり、隊から無断離脱したりと、問題ばかり起こしている。しかし戦況は厳しく、訓練期間を短縮して前線に送られることになる。前線に送られる前夜、遺体が見つからない場合に備え、髪の毛と爪を切るよう命じられる。
一方、村にもしょっちゅう戦闘機が飛んでくるようになった頃、おっ母のもとに再び召集令状が届く。同じ村に「呉将軍」という同姓同名の青年が二人いて、前に受け取った召集令状は他人のものだったのだ。おっ母とコップンは慌てて郵政省や軍に嘆願に行くが、たらい回しにされるばかり。そんなことはつゆ知らず、前線に向かう呉将軍。
一方、前線では軍事会議が開かれている。司令官は敵の攻撃をかわすため、敵軍にニセの情報を流す逆情報工作を企む。司令官は、肩を揉みにきた呉将軍の純粋無垢な態度に目をつけ、彼にニセ情報を与え、敵の捕虜になるように仕向ける。
前線に置き去りにされた将軍は、敵に見つかり捕虜にされる。まさにその時、逮捕状を持った憲兵が現れ、他人の召集令状で入隊した呉将軍の引渡しを司令官に要求する。しかし、すでに遅し。
敵軍の捕虜となった将軍は拷問され、ニセの情報を敵軍に漏らす。ニセの情報を信じ、攻撃のチャンスを逃した敵軍は、将軍が逆情報の工作員であったことを知り、処刑を執行する。将軍は最期まで何も知らぬまま、ただ一言「おっ母、コップン、モクセ」と叫び、銃殺される。敵軍の司令官は最期まで無知な百姓を演じ通した将軍の“名演技”に感嘆する。
おっ母、コップン、モクセのもとに、前線に行く前に切った髪の毛と爪が入った箱が届けられ、将軍の勇壮な戦死が伝えられる。
本作品は1974年に執筆されたが、軍を風刺した内容のため上演禁止処分を受け、1988年に初演された。

呉将軍の足の爪

シンポジウム

韓国の近代劇の始まり

パネリスト
呂石基(ヨ・ソッキ)
林英雄(イム・ヨンウン)
司会=大笹吉雄


主催=日韓演劇交流センター
共催=世田谷パブリックシアター
平成18年度文化庁芸術団体人材育成支援事業

現代日本戯曲リーディングVol.2(ソウル)

2005年11月17日~20日
韓国中央国立劇場

◯リーディング

 『杏仁豆腐のココロ』

作=鄭義信/翻訳=李惠貞/演出=奇國敍(キ・クッソ)

杏仁豆腐のココロ

『泥人魚』

作=唐十郎/翻訳=高晶恩(コ・ジョンウン)/演出=呉泰錫

泥人魚

『木に花咲く』

作=別役実/翻訳=石川樹里/演出=李潤澤

木に花咲く

シンポジウム
『日韓の現代戯曲の現在』

発表者=金潤哲(キム・ユンチョル)・扇田昭彦・李康白(イ・ガンベク)・別役実
司会=林英雄 (イム・ヨンウン)
討論者=金大鉉(キム・デヒョン)・大笹吉雄・西堂行人

韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.2

韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.2

2005年2月18日~20日
シアタートラム

(プロフィール等は上演時のものです)

韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.2

自転車

作=呉泰錫(オ・テソク)
翻訳=木村典子
演出=石澤秀二

出演
井上昭子(青年劇場)/益富信孝(青年座)/ 根岸佳南江 (テラ・アーツ・ファクトリー)/ 小島敏彦(朋友)/武田光太郎 (レオコーポレーション)/ 嶋隆静(フリー)

作=呉 泰錫

1940年生。64年、延世大学哲学科卒業。劇作家として68年『換節記』、73年『草墳』、74年『胎』、80年『山茱萸』、83年『自転車』などを韓国演劇史に残る演出家たちが競って上演。84年に劇団木花を旗揚げして以来、演出家として自身の作品を上演している。代表作に『春風の妻』『父子有情』『白馬河の月の夜に』『コソボ、そして流浪』『I LOVE DMZ』他。現在、ソウル芸術大学劇作科教授を務めながら、専用劇場アルングジで一年の半分以上公演をおこなう。

『自転車』あらすじ

朝鮮戦争の時代に焼き殺された村人127名の命日に、村役場に務めるユン書記は理由もなく意識不明となり、42日間職場を欠勤する。欠勤届けを書こうにもその理由がわからない。彼は同僚のク書記と共に、その日の足取りを追う。……農高の同窓生を無免許医療で告発し、帰宅途中に酒を飲む。自転車を押しながら深夜の帰り道、ガチョウの家と呼ばれるハン家の前で、次女が家出したと主人がうろついている。妹を追い出したのは自分だと長女は言うが、その理由が釈然としない。どうもこの家の子供たちは、ソルメのハンセン病患者の家から養子に出されたらしい。彼はソルメに自転車を向ける。しかしそこでは何もわからない。しばらく行くと水死した祖父の友人の漢方医と会う。この漢方医も焼死した一人だ。石橋の下の蟹捕りの所では、醸造所のファン氏があばれ牛にやられたとやって来る。シントルメのコルチェンイまで来た時、ハン氏の次女が自転車に飛び乗った。墓地に隠れていたという。自転車の前にロウソクを立て、ハン氏の家に連れ帰ろうとした時、女の声が聞こえる。とっさにロウソクの灯りを消す。すると闇の中から牛が突進してくる。そして、意識を失う。……すっぽり記憶から抜けていた事件があった。ソルメの夫婦の家に炎が上がり、その現場に向っていたのだ。そこで彼が見たのは、炎の中のソルメの妻、それに重なるように、かつて死んでいった村人たちの姿だった。

自転車

鳥たちは横断歩道を渡らない

作=金明和(キム・ミョンファ)
翻訳=石川樹里
演出=ふじたあさや

出演
綾香詳三(京楽座) /西村剛士(京楽座)/ 松田光輝(京楽座)/こやまあつこ(朋友)/釈種サヤカ(朋友)/清和竜一(朋友)/菊地誠(フリー)/丸山詠二(フリー)/武藤アサ子(フリー)

作=金 明和

1966年生。88年梨花女子大学教育心理学科卒業。94年、評論家としてデビュー。劇作では97年に『鳥たちは横断歩道を渡らない』で三星文学賞戯曲部門を受賞。00年『オイディプス、それは人間』、01年『チェロとケチャップ』と連続で韓国演劇協会選定のベスト5となる。01年『トルナル(一歳の誕生日)』では韓国演劇評論家協会「今年のベスト3」と東亜演劇賞を受賞。02年、平田オリザとの合作『その河をこえて、五月』で第二回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。

『鳥たちは横断歩道を渡らない』あらすじ

交通事故で怪我をしたスンジェの代わりに演出をしてくれないかと演劇部の後輩に頼まれたジファン。はじめは断るが、結局演出を引き受ける。久しぶりのサークルルームに、仲間たちと過ごした日々が甦る。学生時代を送った80年代は軍事政権下、学生運動が盛んだった。仲間たちもデモや学習会にのめり込み、誰もが未来を信じて戦った。現役の後輩たちは、政治や社会には無関心、個人の欲望や快楽に率直でジファンは戸惑いを覚える。公演の演目は決まったが、反抗的なソンテやゲイのヒスなどはジファンに敵意があり、稽古はうまくいかない。そんなある日、連絡もなく稽古に遅れてきたソンテと衝突し、ソンテは稽古に来なくなる。入院中のスンジェを見舞ったジファンは、ソンテが演劇部の仲間だったギュテの弟だと知る。ジファンの恋人は民主化を訴えるために焼身自殺を計画、知りながら止めなかったギュテをジファンはいまだに許せない。しかし、ギュテ自身も警察の拷問で発狂し、今は精神病院に入院中だ。ギュテの弟であるソンテを見放すなとスンジェは忠告する。ソンテの居場所を突き止めたジファンは、欲望渦巻くいかがわしい酒場に足を踏み入れて連れ戻し稽古を再開する。しかし、ヒスが吃りで、稽古は進展しないし、ソンテは相変らず反抗的だ。朝、ヒスが一人で稽古をしていた。ヒスは、自分が同性愛者であることを父に告白できる日が来るだろうかと打ち明ける。

鳥たちは横断歩道を渡らない

豚とオートバイ

作=李萬喜(イ・マニ)
翻訳=熊谷対世志
演出=鐘下辰男

出演
大鷹明良 (アルファエージェンシー)/渡辺美佐子(岩淵ぐるうぷ)/ 西山水木(M・M・P)/占部房子(小野事務所)/小林勝也(文学座)

作=李 萬喜

1954年生。78年東國大学印度哲学科卒業。光州市内で小劇場を始め、処女戯曲『処女飛行』発表。90年『それは木魚の穴の底の小さな闇でした』で三星文芸賞、ソウル演劇祭大賞、戯曲賞、白想芸術大賞戯曲賞受賞。92年開始の『電気、チョッと消して下さい』は1000回を越えるロングランとなった。96年『治ってから出て行け』で東亜演劇賞戯曲賞。97年発表『辰年の上に戌年』は現在までロングランを続けている。

『豚とオートバイ』あらすじ

孤児ながら、苦労して英語教師になった黄載奎は結婚して幸せに生活していたが、一つ目で額に口がある奇形児が生まれ、苦悶の末、その子を殺してしまう。やがて下獄した彼を待っていたのは、妻が、病身の母を抱えつつ不倫に走り、その事に耐え切れず自殺したという報せだった。彼女は詩ともつかない走り書きを遺していた。「何日か前に初めて悟りました。始まりというのは、我々が何気なく口にした言葉と行動から始められたという事を。言葉の大切さを思い知って行きました。」  出獄後、予備校講師となった載奎は、かつての教え子である慶淑と暮らしている。高校教師だった載奎に猛烈なアタックを仕掛けた向こう見ずな少女だった慶淑は、今は医大を出て専門医の道を進む立派の大人の女性であり、犯罪者であった載奎を、昔と変わらずに、あるいはそれ以上に愛しており、年の離れた「元犯罪者」との結婚に反対する親と三年も闘い続けている。人生の全てにとまどっている載奎は、慶淑との結婚話にも迷う。それどころかこの結婚話が、彼に自分の来し方を思い巡らせてしまう。観客、或いは死んだ妻に語りかける載奎。それは彼の苦行のような人生を回想させ、それが彼を更に悩ませる。獄中、子殺し、裁判、慶淑との出会いといった様々な回想の中で、載奎はようやく「始めの一歩」を踏み出す覚悟ができてくる。

豚とオートバイ

エビ大王

作=洪元基(ホン・ウォンギ)
翻訳=馬政熙
演出=木村真悟

出演
山内栄治(池袋小劇場)/鳥山昌克(唐組)/大貫誉(新宿梁山泊)/コビヤマ洋一(新宿梁山泊)/近童弐吉(ワンダープロ)/近藤結宥花(新宿梁山泊)/松岡哲永(新宿梁山泊)/星野和香子 (ストアハウスカンパニー)/井口香 (テラ・アーツ・ファクトリー)/中村万里(フリー)/南谷朝子(青年座映画放送)

作=洪元基

1959年生。ソウル芸術専門大学を卒業。84年呉泰錫率いる劇団木花に入団し、俳優兼作家として活躍。89年『アスファルト』で韓国日報新春文芸に当選。02年発表の『エビ大王』でソウル公演芸術祭の戯曲賞・作品賞他を独占。代表作に『本物の新派劇』『高句麗ブルース』『スフィンクス—ソウル版オイディプス—』『石持(いしもち)は美味い』等がある。

『エビ大王』あらすじ

時代は古朝鮮のある時、青銅器から鉄器に移ろうとしている時代、神話と歴史が共存していた時期、政治と宗教が分離されていく時期。世継ぎとなる息子を欲していたエビ大王は、女ばかりしか生まれない事に業を煮やし、最後に生まれた娘を川に捨ててしまう。ある日、来世からの二人の使者が現れ、寿命が尽きたことをエビ大王に告げる。しかし大王は息子をもうけるまで死ねないと懇願する。使者たちは猶予の時間を大王に与えるが、そのかわり一日三十人の民を殺さなければならぬ事を彼に告げる。大王は多少の動揺を見せるが承諾する。息子を作るため三千人の宮女たちと産土神宮に籠り、長女の夫と次女の夫に政務を任せるが、派閥を形成して対立していく。使者たちは王にこう告げる。「父に捨てられ、夫に捨てられ、息子に捨てられる運命の女があなたの息子を産める」と。早速、娘の捜索を部下に命じる。捨てられた娘・パリデギは無事に成長していたが、育ての母が病気のため、わずか三俵の米で身を売る事になる。売られて嫁にいったパルド(八道)の家は焼かれ、パルドの八番目の息子と結ばれたパリデギは男を産む。予言は成就されるが、パリデギは自分の六番目の姉に夫を奪われ、息子にも去られてしまう。パリデギは産土神宮に招き入れられ、危うく父王と関係を結びそうになる。親子は再会するが、王は自らの罪の重さを悟り、「私を殺せ」と部下に命じる。

エビ大王

真如極楽 こころとかたち

作=李康白(イ・カンベク)
翻訳=津川泉
演出=森井睦

出演
豊田茂(青年座)/神山寛(俳優座)/二宮聡(ピープルシアター)/中山一朗(フリー)/堀江真理子(フリー)

作=李康白

1947年生。71年東亜日報新春文芸に戯曲『五』当選登壇。ヨンヒ演劇賞(75)、東亜演劇賞(82)、ソウル劇評家グループ賞(83)、韓国演劇芸術賞(94)、大山(テサン)文学賞(96)ソウル演劇祭戯曲賞(98)百想芸術大賞戯曲賞(01)等受賞多数。98年~02年韓国芸術総合学校演劇院劇作科教授。現在、ソウル芸術大学劇作科教授。代表作に『野原にて』(中学国定教科書所収)『七山里』『春の日』ほか。

『真如極楽 こころとかたち』あらすじ

名仏師ハム・ミョジンには二人の高弟がいた。仏像の完璧な「かたち」を追究するトンヨン。仏の「こころ」が入らなければ無意味と考えるソヨン。そして二人を兄のように慕って育ったハム・ミョジンの一人娘ハム・イジョン。ソヨンは煩悶の末、「かたち」に懐疑を抱き、仏のこころを探す旅に出る。その間、トンヨンはハム・イジョンの体を奪い結婚する。ハム・ミョジンは老いて体調が悪化、トンヨンを後継者に選ぶ。やがて、息子誕生。たまたま工房に立ち寄ったソヨンは二人の結婚を知り、再び遍歴放浪の旅に出る。十数年後、あれこれ小言を言う車椅子のハム・ミョジンを出入禁止にするトンヨン。ある日、ハム・ミョジンは倒れた仏像の下敷きとなって死ぬ。娘のハム・イジョンは父の幻影を見るほど動揺する。トンヨンは妻に自分の作った仏像に三千回礼拝することを命じる。彼女はそれを途中で投げ出し、ソヨンを探しに家を出る。そして野末で乞食のような姿をしたソヨンに出会う。ソヨンがつくる「かたち」にこだわらない石仏が近隣の人々の信仰を集めているのを知り、彼女も行を共にする。精神的な父ソヨンと実父トンヨンがいつも胸中で争い葛藤していた息子チョ・スンインは、仏師となることを願う父の希望に抗い音楽家となり、二人の「父」の不協和音を音楽で調和させようと決心する。音と沈黙、「かたち」と「こころ」が調和した境地、「極楽」という世界観が明らかにされる。

真如極楽

シンポジウム
戯曲と上演

パネリスト
呉泰錫
李康白
ふじたあさや
司会=西堂行人

主催/日韓演劇交流センター◇ 共催/世田谷パブリックシアター
平成16年度芸術団体人材育成支援事業

現代日本戯曲リーディング&シンポジウム(2003年ソウル)

韓日演劇交流評議会主催<ソウル>
現代日本戯曲のリーディング公演&シンポジウム

2003年11月12日~15日
韓国国立劇場・小劇場 ほか

日本からは劇作家として鐘下辰男氏、宮沢章夫氏、松田正隆氏、平田オリザ氏、
センターからは大笹吉雄会長、森正敏氏が招かれました。

ドラマリーディング

『ルート64』

作=鐘下辰男
翻訳=石川樹里
演出=朴章烈(パク・チャンリン)

『ヒネミ』

作=宮沢章夫
翻訳=朴泰圭
演出=沈載祭(シム・ジェチャン)

『沈黙と光』

作=松田正隆
翻訳=宋宣浩(ソン・ソノ)
演出=崔蓉勲(チェ・ヨンフン)

上演

『マダンノリ』

作・演出=孫振策(ソン・ジンチェク)
国立劇場内特設テント

『ソウル市民1919』

作=平田オリザ
演出=李潤澤(イ・ユンテク)
スターシティアートホール

シンポジウム
韓国国立劇場・小劇場

発表1 大笹吉雄「現代日本戯曲の流れ」
発表2 金文煥(キム・ムンファン)「韓国で公演された日本演劇の成果」
発表3 森正敏「日韓演劇交流の未来」
総合討論 (大笹吉雄、金文煥、森正敏、徐淵昊(ソ・ヨノ)、李勝葉(イ・ソンヨプ)

翻訳

『こんにちは、母さん』 作=永井愛/翻訳=李惠貞(イ・ヘジョン)

『天皇と接吻』 作=坂手洋二/翻訳=木村典子

韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.1

韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.1

2002年10月11日~13日
杉並区/大学生協会館地下ヴァーシティホール

代代孫孫

作=朴根亨(パク・グニョン)
翻訳=熊谷対世志
演出=林英樹

狂ったキッス

作=曹廣華(チョ・ガンファ)
翻訳=木村典子
演出=吉村八月

パボカクシ

作=李潤澤(イ・ユンテク)
翻訳=金成輸
演出=石澤秀二

無駄骨

作=張鎭(チャン・ヂン)
翻訳=青木謙介
演出=小松杏里

愛を探して

作=金光林(キム・カンリム)
翻訳=石川樹里
演出=内田透

10月12日~13日
李潤澤のワークショップ
シンポジウム:「民主化以降の韓国若手劇作家の活躍と位置づけ」
パネリスト
林英雄(イム・ヨンウン/演出家)
金潤哲(キム・ユンチョル/演劇評論家)
石澤秀二(演出家)
大笹吉雄(演劇評論家)
西堂行人(演劇評論家)