韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.3
2007年2月2日~4日
シアタートラム
ドラマリーディング
山火(やまび)
作=車凡錫(チャ・ボムソク)
翻訳=木村典子
演出=石澤秀二
出演
神山寛(俳優座)/土屋美穂子(青年座)/浦吉ゆか(青年劇場)/志村麻里子(テラ・アーツ・ファクトリー) 前田真里衣(民藝)/鶉野樹理(俳優座)/清田直子(フリー)/井口香(テラ・アーツ・ファクトリー)/五味多恵子(青年座) 緒方淑子(青年座)/根岸佳南江(テラ・アーツ・ファクトリー)/高橋浩平(フリー)/武田光太郎(レオコーポレーション) 広戸聡(青年劇場)
作=車凡錫
1924年、全羅南道木浦生まれ。光州師範学校(1945年)ならびに延世大学英語英文科(1966年)を卒業。55年、朝鮮日報新春文芸に戯曲『密酒』が佳作入選、翌年『帰郷』が当選し文壇デビュー。戦後文学の第一世代として、韓国リアリズム演劇の確立に貢献。戦後文学世代ならではの風刺と批判意識の強い作品群は、戦争とその傷痕という問題にとどまることなく、変遷する社会を多様な角度からみつめている。60年代には代表作『山火』をはじめ『鷗の群』『青瓦家』など17作品、70年代には『王教授の職業』『虐殺の森』など21作品、80年代以降は『鶴よ、愛なのだろう』『夢の空』『オクダン』などを発表。また、56年に劇団製作劇会を旗揚げし、小劇場運動を主導。63年、劇団山河創団。清州大学、ソウル芸術専門大学で教鞭をとりながら、大韓民国芸術院会長、韓国文化芸術振興院長を歴任。2006年6月6日、82歳で他界。 朝鮮戦争休戦会談が行われた冬から翌春にかけての、慶尚道と全羅道を隔てる山脈の山あいにある集落。
『山火』あらすじ
里長の梁(ヤン)氏のところへ女たちが集まっている。ほとんどの男たちは殺されたのだ。梁氏の息子で点禮(チョムレ)の夫は、人民軍に捕まる前に逃げたとされ、反動の札をつけられている。いらだつ女たちは、穀物のことや梁氏の息子のことで口論となる。貧しさで生活は荒んでいた。そこへ夜警勤務の命令が下る。この村にアカが逃げ込んだらすぐ通報せよと。もし匿えば連帯責任で村が処罰されることになる。梁氏が夜警当番の晩、点禮の前に怪我をした圭福(ギュボク)が現れる。アカではないという圭福を点禮は竹林に匿う。
3週間後、点禮は竹林に食料を運んでいた。圭福と密会を重ね親密な関係になっている。圭福はアカの友人に連れ回され、いつのまにかアカの札をつけられていた。自首を勧める点禮だが圭福の決心はつかない。村では山にアカが逃げ込んだと噂されていた。竹林から下りてきた点禮を四月(サウォル)が見つける。詰め寄る四月にこっそり圭福のことを告げると、四月は一日交代で圭福の面倒を見ることを提案、点禮は仕方なく承諾する。
早春、四月が寝込んでいる。圭福との子を身籠もったらしい。亭主もいないのに子どもが出来るはずがないと母の崔(チェ)氏は思っている。四月の様子を見に行く点禮。アカを一掃するために山に火を放つという噂もあり、二人は追い詰められる。四月の子どものことは村でも噂になっていた。
竹林を燃やすためにやってきた兵士を必死に止める点禮だが、願いも空しく火が放たれる。やがて圭福が引きずり出され、女たちは四月の家へ押し寄せる。家の中から聞こえた崔氏の悲鳴は、やがて泣き声に変わっていく。その声を聞きつつ、点禮が圭福の手足を揃えてやる。
人類最初のキス
作=高蓮玉(コ・ヨノク)
翻訳=山野内扶
演出=笠井友仁
出演
中山一朗(フリー)/池田勝(フリー)/勝矢(RIKIプロジェクト)/矢内文章(フリー)/高松潤(青年座)/横山晃子(テラ・アーツ・ファクトリー)/菊地誠(フリー)/渡邉力(フリー)/横手ひさお(銅鑼)
作=高蓮玉
1971年ソウル生まれ。94年、釜山東亜大学卒業。同年、釜山MBC児童文学大賞少年小説部門に入賞。時事雑誌記者ならびに放送作家として活動中の96年、釜山日報新春文芸戯曲部門に入賞し、劇作家としてデビュー。99年、釜山市立劇団主催の小劇場フェスティバルで『夢ならいいのに』、埠頭演劇団で『芝居のような人生』(原作=『ヴォイツェック』)など、釜山での活動が中心だったが、01年に金洸甫(キム・カンボ)演出で『人類最初のキス』をソウルで上演。この作品が2001年演劇評論家協会が選ぶベスト3に選ばれ一躍脚光をあびる。03年、再び金洸甫とのコンビで『笑え、墓よ』を上演し、04年の芸術賞演劇部門優秀賞、浦項国際演劇祭最優秀作品賞。06年、『一週間』(演出=朴根亨(パク・グニョン))、『白下士官物語』(演出=ムン・サムファ)を発表、ブレヒトの『肝っ玉おっ母とその子どもたち』の脚色も手がけるなど、旺盛な創作活動をつづけている。
『人類最初のキス』あらすじ
人里はなれた山奥にある青松(チョンソン)監護所の一般房に、元タクシー運転手のハクス、この部屋の班長トンパル、イエス信者のソンマン、入所間もないやくざのサンベクが暮らしている。
ハクスの仮釈放の決定を下す社会保護委員会が開かれ、判事・検事・心理学者・精神科医の審査が始まる。反省を述べるハクスに対し、検事は危険な男だと言い、心理学者は極悪非道な犯罪者の典型的な顔だと説明しつづけている。医師はそれに対し時代錯誤と反論するも、結局保護観察延長3年が言い渡される。判決を聞き狂いだしていくハクスを興味深くみながら判事は5年、7年とさらに延長する。ハクスから理性の色が消えはじめる。ある日の早朝、ハクスが食べていたものは自分の糞だった。
ソンマンの懺悔文が評価され、仮釈放の社会保護委員会が特別に開かれた。ソンマンはまるで救世主イエスのような神々しい姿で、逆に危険人物とみなされ、仮釈放は棄却される。暴れたソンマンは教導官に銃殺される。残された三人の前に亡霊となって現れ、こちらは幸せな場所だと死の世界に誘う。ハクスは静かに息絶える。
サンベクのところへ教導官が来る。長い間の顔見知りだ。教導官は一生を塀の中で暮らす俺たちは似たり寄ったりだと言い、サンベクもそれに同意する一方で、私は人殺しの悪人だと言い、教導官を絶望させる。
トンパルの社会保護委員会が開かれた。外へ出る意思がないトンパルを理解できない判事たち。その時、外が騒がしくなる。一人の受刑者がトイレで首をくくったことが知らされる。トンパルはサンベクだと直感する。判事は満65歳以上は無条件仮釈放となる判決を出すが、トンパルはそれを拒む。空に向かって話すトンパル。「俺も連れて行けよな。いっしょに行こうぜ。」
0.917
作=李鉉和(イ・ヒョナ)
翻訳=鄭大成
演出=中野志朗
出演
二宮聡(ピープルシアター)/髙橋幸子(青年座)/松熊つる松(青年座)/城全能成(文学座)
作=李鉉和
1943年、黄海道載寧生まれ。67年、延世大学英文科卒業。93年、延世大学言論情報大学院新聞放送高位課程修了。70~01年までKBSテレビに勤務。70年、「中央日報」新春文芸に『ヨハネを捜します』で入選し、76年、「中央日報」創刊10周年記念公募に『シーシーシーッ』が入賞、金正鈺(キム・ジョンオク)演出で自由劇場が上演。77年「文学思想」新人作品賞、78年ソウル劇評家グループ賞、韓国演劇映画芸術賞、79年「現代文学」賞、84年大韓民国文学賞、87年大韓民国演劇祭戯曲賞、88年東亜演劇賞、百想芸術大賞、98年キリスト教文化大賞など受賞多数。
75~80年、民衆劇場『どなたですか?』がロングラン。『カデンツァ』(78)、『0.917』(81)で劇作家としての地歩を固め、『サンシッキム』(81)、『不可不可』(82年)などで、抑圧された人間存在の悩める魂の深奥をさらに追及した。〈残酷演劇〉という面ではアントナン・アルトーとの、風刺的想像力の楽しみ・不条理劇という面では朴祚烈(パク・ジョヨル)やピンターとの、共通性で語られることもあり、現代韓国におけるポストモダン劇の急先鋒である。
『0.917』あらすじ
ある雨のふる夜、中年の男が一人、宿直室で無聊な時を過ごしている。
そこに、雨にびっしょり濡れた一人の少女が飛びこんでくる。男は少女を家に帰そうとする。が、少女は男の言うことをきかず、体で男を誘惑し、中年になるまで、何をし、何のために生きてきたのかと、男を厳しく問い詰める。50代後半での惨めな定年退職を考えたら、挫折して当然ではないかと。
そこに、夜食のサンドウィッチを持って、男の妻が現れる。男はあわてて少女をソファの後ろに隠す。しかし、これまでのことはすべて男の幻想だった。いつの間にか現実の世界に戻った男の耳に、少女の笑い声が響く。汽笛よりも大きく、その笑い声は男をあざ笑う。
さて、所かわって、さっきの男の妻か。たしかに話は繋がっているのだが、違う女だという設定で女A。マンションに帰って明かりをつけると、闇の中で少年がうずくまっていたので驚く。
家に帰そうとするが、黙ってばかりいて、なかなか帰らない。そのうち女Aは少年に同情してしまう。亭主の食べなかったサンドイッチを少年に食べさせた後、だんだん気を許してしまう。
少年は顔色を窺いながら、いつのまにか女Aの乳房に手をやっている。そして彼女にワインを勧める。しらずしらず彼女は興奮してくる。その瞬間、少年ははじめて声を発し、肉体派サディストに変身。ワインを胸にたらして女Aに飲ませ始める……。
そして最後の場所は、少年A・少女Aの登場するアジト。帰ってきた彼らの謎めいた会話。あたかも妖怪人間のごとく、「早く成人になりたい」という彼らは何を表しているのか。
「幕」という語を廃し、登場人物につけられる「A」という記号。物語を拒否しつつ、無数に累乗されるストーリー。
離婚の条件
尹大星(ユン・デソン)
翻訳=津川泉
演出=森井睦
出演
青木勇二(FMG)/井口恭子(青年座映画放送)/伊東知香(ピープルシアター)/久野歩(フリー)/籠嶋徹也(ピープルシアター)/佐野美幸(青年座)
作=尹大星
1939年咸鏡北道會寧生まれ。61年延世大学校法学科卒業。64年ドラマセンター演劇アカデミー修了(現・ソウル芸術大学)。67年東亜日報新春文芸戯曲部門に『出発』が当選。銀行員生活をしながら戯曲を書いていたが、70年銀行を辞め、本格的作家活動開始。73~80年劇作の傍らMBC専属作家として『捜査班長』などテレビドラマを執筆。80年からソウル芸大劇作科で教鞭をとり、04年退官。同年『尹大星戯曲選集』全4巻刊行。
2000年23回東朗・柳致眞演劇賞、韓国演劇映画芸術賞(2回)、東亜演劇賞、現代文学賞、大韓民国演劇祭戯曲賞、大韓民国放送大賞脚本賞、韓国演劇芸術賞、大統領表彰、国民褒章などを受賞。
主な作品に『マンナニ(ならず者)』『奴婢文書』『出世記』『男寺党の空』『SARS家族』『明洞ブルース』『清渓川(チョンゲチョン)』。韓国の伝統的仮面劇などの民俗的要素を加味した作品や、青少年のための作品、『離婚の条件』に代表されるアクチュアルで社会性濃厚な写実主義的作品がある。
『離婚の条件』あらすじ
90年代半ば頃から20年以上連れ添った中高年の「熟年離婚」が韓国でも増え、「黄昏離婚」という名でマスコミ報道されるようになった。『離婚の条件』は、熟年夫婦の危機と波紋をリアルに描く。
コピーライターの夫は、アイディアの創出に四苦八苦していた。コーヒーの宣伝コピーがままならないのだ。そんなある日CF撮影現場で在日同胞出身のモデル、30代初めのユミに出会い、互いに惹かれあう。
娘の結婚の3日前、妻が夫に突然離婚を宣言。実は25年の間、着々と離婚準備を進めてきた。ことあるごとにアドバイスしてきた主治医崔博士も困惑するばかり。その晩、婚約者ハンが娘エラを訪ねて突然、婚約破棄を申し出る。夫は婚約破棄に賛成する。泥酔したハンはエラの部屋に泊まり、枕を共にする。深夜、エラと愛しあって自信を取り戻したハンは破棄を撤回。ハンが帰っていくと、夫人が恋人がいると告白。夫は家を出て行く。
数ヶ月後、夫は散らかり放題の部屋で腰痛に苦しんでいた。訪ねてきたユミが、いつものように腰に脚を絡ませて抱きついた拍子に腰痛が奇跡的に治る。二人は一緒に暮らしはじめる。
ひと月後。部屋からユミがかばんを持って出ていこうとする。と、夫が帰ってくる。夫の言い訳もむなしく、ユミは出て行く。夫ははじめて、「生きるとは何か?」という人生の意味に対する根源的問いに直面する。そして妻に電話する。だが、妻の名が思い出せない。世界が壊れた彼の眼前には、幻影のように現れる夫人、博士、娘夫婦、ユミ。
夫の子供を妊娠したユミは自立して子供を育てるという。「残った人生でオレの役割は?」とつぶやく夫。崔博士が答える。「死の安息が待っている」と。その時、ようやく人生の真実に開眼した彼に、行き詰まっていた広告コピーのアイディアが閃く。
呉将軍の足の爪
作=朴祚烈(パク・ジョヨル)
翻訳=石川樹里
演出=鄭義信
出演
下総源太朗(ワンダー・プロダクション)/服部良次(黒テント)/南谷朝子(青年座映画放送)/朱源実(ケイファクトリー)/柴田次郎(マックス・プロモート)/紫竹芳之(フリー)/佐藤秀嗣(フリー)
作曲=萩京子
作=朴祚烈
1930年、咸鏡南道咸州郡生まれ。咸興高級中学校卒業後、北朝鮮で一年半あまり中学校の文学教員を勤める。1950年、朝鮮戦争のさなかに南に渡る。その後12年間、韓国陸軍服務。63年、ドラマセンター演劇アカデミー研究課程(現ソウル芸術大学)に入学し、戯曲・ドラマ脚本の執筆を始め、63年10月、処女作『観光地帯』を発表。65年、『ウサギと猟師』で東亜演劇賞受賞。66年、劇団自由の旗揚げに参加。73年、呂石基(ヨ・ソッキ)教授とともに、韓国劇作ワークショップを開設。81年、ドラマドキュメンタリー『大地の息子』で大韓民国放送大賞受賞。86年以後、創作活動を中断し、演劇上演に対する事前検閲制度の廃止運動を主導。88年、『呉将軍の足の爪』で百想芸術大賞受賞。現在、韓国芸術総合学校演劇院客員教授。大韓民国芸術院(アカデミー)会員。ほかの代表作に『首の長い二人の対話』、『シロの訪問』、『曺晩植は生きているか』ほか。ラジオドラマ・テレビドラマ多数。
『呉将軍の足の爪』あらすじ
貧しい小作人の一人息子として生まれた呉将軍は、おっ母とモクセ(牛)と日々のどかに暮らしていた。ある日、将軍のもとに召集令状が届く。将軍は恋人コップンに知らせに行き、入隊する前にと結ばれる二人。
訓練所に入った呉将軍二等兵は、訓練中に腰が抜けたり、隊から無断離脱したりと、問題ばかり起こしている。しかし戦況は厳しく、訓練期間を短縮して前線に送られることになる。前線に送られる前夜、遺体が見つからない場合に備え、髪の毛と爪を切るよう命じられる。
一方、村にもしょっちゅう戦闘機が飛んでくるようになった頃、おっ母のもとに再び召集令状が届く。同じ村に「呉将軍」という同姓同名の青年が二人いて、前に受け取った召集令状は他人のものだったのだ。おっ母とコップンは慌てて郵政省や軍に嘆願に行くが、たらい回しにされるばかり。そんなことはつゆ知らず、前線に向かう呉将軍。
一方、前線では軍事会議が開かれている。司令官は敵の攻撃をかわすため、敵軍にニセの情報を流す逆情報工作を企む。司令官は、肩を揉みにきた呉将軍の純粋無垢な態度に目をつけ、彼にニセ情報を与え、敵の捕虜になるように仕向ける。
前線に置き去りにされた将軍は、敵に見つかり捕虜にされる。まさにその時、逮捕状を持った憲兵が現れ、他人の召集令状で入隊した呉将軍の引渡しを司令官に要求する。しかし、すでに遅し。
敵軍の捕虜となった将軍は拷問され、ニセの情報を敵軍に漏らす。ニセの情報を信じ、攻撃のチャンスを逃した敵軍は、将軍が逆情報の工作員であったことを知り、処刑を執行する。将軍は最期まで何も知らぬまま、ただ一言「おっ母、コップン、モクセ」と叫び、銃殺される。敵軍の司令官は最期まで無知な百姓を演じ通した将軍の“名演技”に感嘆する。
おっ母、コップン、モクセのもとに、前線に行く前に切った髪の毛と爪が入った箱が届けられ、将軍の勇壮な戦死が伝えられる。
本作品は1974年に執筆されたが、軍を風刺した内容のため上演禁止処分を受け、1988年に初演された。
シンポジウム
韓国の近代劇の始まり
パネリスト
呂石基(ヨ・ソッキ)
林英雄(イム・ヨンウン)
司会=大笹吉雄
主催=日韓演劇交流センター
共催=世田谷パブリックシアター
平成18年度文化庁芸術団体人材育成支援事業