韓国現代戯曲集Vol.5

韓国現代戯曲集5

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『道の上の家族』

作=張誠希(チャン・ソンヒ)
翻訳=石川樹里

張誠希

1965年、江原道寧越生まれ。中央大学文芸創作科卒業、同大学院演劇学科修士。劇作家、演劇評論家。ソウル芸術大学兼任教授。1992年より演劇評論家として活動し、1996年に『青山に暮らさん』で国立劇場脚本公募創作部門受賞、さらに1997年には『パンドラの箱』が韓国日報新春文芸戯曲部門に当選し、劇作家としてデビュー。現在まで演劇評論と劇作活動を並行している。1998年大山文化財団文学人創作支援対象者選定。2001年文芸振興院新進文学人支援対象者選定。2007年文化芸術委員会芸術創作および表現活動支援戯曲部門選定。2008年『夢の中の夢』でソウル演劇祭大賞、戯曲賞受賞。
主な作品に、『夢の中の夢』(08)、『柊擬の森の思い出』(08)、『アンチ・アンティゴーネ』(07)、『水の中の家』(07)、『転生区域』(01)、『月光の中に進む』(00)、『A.D.2031、第三の日々』(99)、『この俗世の歌』(98)などがある。最新作は2010年秋に上演された『三人姉妹山荘』。1960年代に実際にあったスパイ団摘発事件をチェーホフの『三人姉妹』を下敷きにして劇化した作品。戯曲集に『張誠希戯曲集』(99)、『夢の中の夢』(09)がある。

『道の上の家族』あらすじ

舞台は晩秋のキャンプ場。妙に大きな荷物を抱えて一組の家族がやってくる。
一家は父母、老父母、少年の五人。痴呆症の老母、反抗的な少年…。
それなりに問題は抱えているようだが、何年ぶりかの家族旅行で幸福そうに振舞う一家。
だが幼い次男の不在が、不安の影のように家族に付きまとう。
劇が進行するにつれ、父親の失職と生活苦、一家の足手まといになっている老父母の存在が浮かび上がってくる。
一家の肩の荷を減らそうと、老妻とともに心中を計ろうとするが、そのタイミングさえ逃してしまう老父。
リフトから飛び降りるが、安全ネットにひっかかり、キャンプ場の管理人に連れ戻される少年。
裕福な家庭に養子にやったと家族を偽り、実は幼い次男を地下鉄の駅に置き去りにしてきた父もまた自殺を計るが失敗する。
死ぬことすらできず、希望のない明日を生きていかなければならない家族が闇に包まれていく。

『爾―王の男』

作/金泰雄(キム・テウン)
翻訳=木村典子

金泰雄

1965年、京畿道南楊州生まれ。劇作家、演出家。現在、劇団「優人」代表、韓国芸術総合学校演劇院劇作科教授。
ソウル大学哲学科在学中から俳優として演劇サークルで活動。卒業後、韓国芸術総合学校演劇院劇作科に入学し、 M.F.A(Master of Fine Arts)過程を終了。1997年、劇団「演友舞台」20周年新鋭作家発掘シリーズで『蠅たちの曲芸』を作・演出し、本格的なデビューをはたす。99年、東亜日報の新春文芸戯曲部門に『月光遊戯』が当選。2000年、劇団「演友舞台」で『爾』を公演し、東亜演劇賞など数々の賞を受賞し、代表作となる。この作品は05年に公開された映画『王の男』(イ・ジュニク監督)の原作としても話題となった。『門』(00)、『風船交響曲』(01)、『プルティナ』(01)を発表後、02年に『花をもつ男』で劇団「優人」を旗揚げ。『楽しい人生』(04)、『反省』(07)、『リンリンリンリン』(09)などを上演している。現在、『爾』(05年初版、10年再版/平民社)、『反省』(06/平民社)、『リンリンリンリン』(10/平民社)の四冊の戯曲集が出版されている。

『爾 王の男』あらすじ

俺の名は長生。孔吉とは無二の親友だ。二人で一座を率いて、旅回り。どこでも大人気だった。大道芸だよ、そんな上等なものじゃない。権力を笑い飛ばし、卑猥な話で客をわかせる。下ネタ満載だよ。しかも、歌舞音曲もにぎやかに、体を張った空中曲芸をやりながら!
そんな俺たちが、今や、王様お抱えの宮廷芸人だ。「戯楽院」直属の「京中優人」様だ。笑っちゃうね。孔吉の奴が、ふとしたはずみで、王様のご寵愛を受けて大出世。今や大臣。その幸運のお裾分けだってさ!
王様ってのは、燕山だよ、あの! 知らないのか?! とんでもないろくでなしだよ。いずれ、李氏朝鮮最悪の暴君なんて呼ばれるのさ。間違いないね!
しかも、べったりくっついてる愛人が、これまたとんでもない性悪女だ。元は妓生……売春婦。
俺は、王には多少は同情する。性格が捻じ曲ったのも無理ないかって思える。だけど、緑水は虫が好かない。いつか俺たちの命取りになる。
孔吉、調子に乗るな。芸人が権力なんか欲しがってどうする??!
だけど、孔吉は、王の寵愛は絶対だと信じてる。緑水と張合って、宮廷を、好き勝手に玩具にする気だ。
孔吉、俺は宮廷を出る。
王の悪政を覆す同志を集める。
革命だ。反乱軍を組織する。
気をつけろ。緑水は何でもするぞ、王の愛を、お前から奪い返すためならば! 孔吉、目をさませ。王は普通じゃない。母親の恨みを晴らす、仇を討つ。それだけで凝り固まって、目が見えない。
怪しい儀式で、母を苦しめた奴らを呪う。ふん。呪われているのはお前だ、燕山!!(青井陽治作成)

※〈爾〉とは、李氏朝鮮時代に王が臣下を敬い呼んだ呼称。劇中では燕山が孔吉を呼ぶ呼称。孔吉は賤民の身でありながら、王から〈爾〉と呼ばれた実在の人物。

『月の家 タルチプ』

作=盧炅植(ノ・ギョンシク)
翻訳=宋美幸

盧炅植

1938年、全羅北道南原生まれ。南原農業高校から慶煕大学経済学部に進学、在学中に書いた随筆が国文科の教授の目に留まり、文章を書くことを勧められる。卒業後、ドラマセンター演劇アカデミーを修了。1965年に『渡り鳥』でソウル新聞新春文芸戯曲に当選。その後、出版社に勤めながら執筆活動を続ける。
代表作に『月の家(タルチプ)』(71)、『懲毖録』(75)、『小作地』(79)、『塔』(79)、『鼓』(81)、『井邑詩』(82)、『空ほど遠い国』(85)、『踊るミツバチ』(92)、『ソウルへ行く道』(95)、『千年の風』(99)、『燦爛たる悲しみ』(02)、『反民特委(ソウルの霧)』(05)、『二人の英雄』(07)、『圃隱 鄭夢周』(08)などがある。
2003年には大邱で「盧炅植演劇祭」が開催された。また、「盧炅植戯曲集」も刊行されている。南北問題に関心を持ち、「ソウル平壌演劇祭」推進委員長を務める。著書として歴史小説も書いている。
受賞歴は「百想芸術大賞」戯曲賞(71、82、86)、「韓国演劇芸術賞」(83)、「ソウル演劇祭」大賞(85)、「東亜演劇賞」作品賞(89)、「大山文学賞」(99)、「行願文化賞」(00)、「東朗・柳致眞演劇賞」(03)、「韓国戯曲文学賞」大賞(05)、「ソウル特別市文化賞」(06)、「韓国芸総芸術文化賞」大賞(09)など多数。

『月の家 タルチプ』あらすじ

1951年、小正月の二日前。山里のとある村。ここでは老婆、ソン・ガンナンが次男のチャンボと、孫嫁のスンドク、曾孫の少年と一緒に暮らしている。ガンナンは、軍隊に行った孫のウォンシク(スンドクの夫)が、無事に家へ帰って来ることと、アカになり山に入ってしまったウォンシクの弟、マンシクが早く戻って来ることを願い待っている。しかしチャンボは村長から、甥っ子のマンシクがパルチザンと共に隣村を襲い、警察隊から追撃されたかも知れないという事実を知らされる。
小正月の夕暮れ。ガンナンが二人の孫の健康を祈っている。チャンボはマンシクの亡骸を確認していたが、このことは隠し通そうと心に決める。その夜、ガンナンの家もパルチザンに襲われ、家畜と食糧を奪われた上、チャンボとスンドクは山に連れて行かれる。翌日の明け方、二人は帰って来るが、スンドクは辱めを受けていた。ガンナンは彼女に家を出ることを命ずるが、チャンボはこれを頑なに反対し大喧嘩する。そして堪えきれずに三·一事件の時、ガンナンが侮辱を受けた秘密を暴露し、家を飛び出す。
それから数時間後、ウォンシクが除隊して家に帰って来るが、彼の目は見えなくなっていた。翌朝、打ち明けられるはずのないスンドクは、木の枝に首を吊って自殺する。ガンナンは何があっても揺るがず、急がなくてはならない畑仕事のことを思い、その日に限って朝寝坊した曾孫の名前を、ただ闇雲に呼び続ける。

『旅路』

作=尹泳先(ユン・ヨンソン)
翻訳=津川泉

尹泳先

1954年全羅南道、海南生まれ。檀国大学校英語英文学科を出て、米国ニューヨーク州立大演劇学科卒業。1993年帰国。翌年『斜視の人禅問答』で演劇界に新しい活力を吹き込む。劇団演友舞台で公演活動。97年プロジェクト・グループ「パーティー」を結成し、10編余りの戯曲を発表。日常的な事件や人物に取材し、詩的言語を駆使した劇世界を構築。韓国芸術総合学校演劇院演出科教授として、多くの弟子を育てた。06年『賃借人』演出を最後に、07年8月24日肝臓癌で亡くなった。
代表作
『旅路』06年韓国評論家協会今年の演劇ベスト3、『キス』97年韓国評論家協会ベスト3受賞

著書
『俳優の存在』(ジョセフ・チェイキン著・翻訳)95年現代美学社
『尹泳先戯曲集1』01年平民社
『尹泳先戯曲集』08年チアン出版社

『旅路』あらすじ

ソウル駅から列車で小学校同窓だった友の葬儀へ向かう五人の中年男。列車内で互いの消息を話す内に、社会的地位の差もあり、ぎこちない雰囲気に。話は失踪したキテクに移る。彼は家具工場を火事で焼失、海で行方不明になっていた。
友の葬式場所は馴染みのない土地。しめやかな通夜、突然、失踪したキテクが現れる。キテクのふてぶてしい態度に、仲間の一人が腹をたてる。
一夜明け、火葬場。火葬せず故郷に埋めてやりたかったとヤンフン。しかし、故郷はリゾート開発に収奪されている。故郷も友人も変わった。望郷の思いがそれぞれの胸によぎる。ヤンフンは故人の遺灰を触りたいと焼場に突入して騒ぎを起こす。
火葬を終えて帰るバスの中、憂さを晴らすかのようにどんちゃん騒ぎする。ソウル高速バスのターミナルでそれぞれの日常に戻ろうとする中で、ヤンフンは「また今夜、おれが死ぬかも」と動こうとしない d。久しぶりの再会がもたらした望郷の想いや追憶……。それぞれの心に生じた微妙な亀裂を縫うように、孤独な魂が寄り添う。

『流浪劇団』

作=李根三(イ・グンサム)
翻訳=洪明花

李根三

1929年、平壌生まれ。平壌師範学校、東国大学英文科、ノースカロライナ大学院卒業後、1966年ニューヨーク大学大学院修了。東国大学専任講師、中央大学副教授を経て、国際ペン倶楽部・韓国本部副会長、西江大学社会科学大学長、大韓民国芸術院会員を歴任。1958年、アメリカ・カロライナ劇会で英文戯曲『果てしなき糸口』で劇作家として登壇、1960年、『原稿用紙』で韓国デビュー。61年『大王は死を拒否した』、63年『偉大なる失踪』、65年『第十八共和国』、71年『流浪劇団』、93年『李成桂の不動産』、98年『老優の最後の演技』、01年『華麗なる家出』等、40作以上の戯曲を執筆。シェイクスピアやオニールの翻訳、西洋演劇史や演劇論の出版など、英米演劇の紹介に尽力。大韓民国芸術院賞(92)、玉冠文化勲章(94)、国民勲章牡丹章(94)、大山文学賞・戯曲部門(01) など、数々の賞を受賞。

『流浪劇団』あらすじ

日本の植民地政策が強化される中、ある劇場が閉館となる。劇団員たちは劇場からも、宿泊していた旅館からも追い出され、流浪の生活が始まる。そこで、愛を主題にした新派劇を公演するが、この公演が思想劇であるとして、団長は日本の警察に逮捕され、作家は拷問を受け、大黒柱を失った劇団は解散の危機を迎える。しかし、それぞれの思惑を抱えながらも残った劇団員たちは再び心を一つにし、新団長を中心に全国津々浦々をまわり、公演を続ける。そんな中、作家のオ・ソゴンは、村の農楽隊から新たな演劇のアイディアを得てマダン劇を行う。マダン劇の成功は劇団に活力をもたらしたが、拷問で持病を患っていたオ・ソゴンは死を迎え、劇団は再び解散の危機に。それぞれがバラバラになっていく中、後から劇団に入団した二人の若者、マンサクとセシルによって、劇団の命脈は引き継がれていく……